ブログカテゴリー: 体外受精のはなし


みなさんお久しぶりです。
胚培養士の岸田です。

男性のみなさん、精子力の改善してますか?

以前のブログで精子力を高めるために、
下半身の換気が大事ですとお伝えしましたが、
冬は服を着込み通気が悪くなるので、
冬こそ換気が特に大事ですよ。

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精子力の改善とともに重要なこと。

それは、採取した後の精子を
できるだけ元気なまま治療に使用することです。

それには精子の保管温度が重要で、

射精後の精子保管温度は人肌~常温が適温だと言われており、
当院の研究でもそれが実証されています。

こちらも以前のブログで、
精子は寒さに弱いことをお伝えしました。
詳細はこちら▶【精子は寒さに弱い?!】


とにかく、精子の冷えは厳禁!ということで
ブログ内でスープジャーでの保温例を紹介しました。

ところがそのスープジャー、
保温には大変優れているのですが、
多少大きいのが難点で、
ポケットなどに入れるとすごく目立ちます。


そのため、保温できてコンパクトなものを探しておりました。






すると!!!






なんともタイミングよく新商品が発売されました。

それがこちら、


当院で開発を開始する前に先を越されましたが
非常にコンパクトです。

缶コーヒーを一回り大きくしたくらいの大きさです。
これなら、ポケットに入れていてもあまり目立たないと思います。

先日当院に商品が到着したので、さっそく性能を調べてみました。

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まずは保温性能から。

35℃くらいの水を精液カップに入れて、
下記の状態で自宅から病院まで運搬しました。

○気象条件は気温4℃、天気は雪(途中から吹雪)。
○自転車で約25分の通勤です。
○精液カップは
(1) そのままコートのポケットの中
(2) SEEDPODに入れてコートのポケットの中

にそれぞれ入れて持参しました。

この条件で病院に到着したとき、ポケットの中の温度は6度でした。


さて、気になる精液カップの中の水の温度ですが、

そのままポケットにいれた方は10℃だったのに対し、
SEEDPODに入れた方は、18℃!


その差8℃。



次に、精子の運動性について。

○精液を30分間 5℃で保管。
○SEEDPODに
(1)入れずに保管した場合
(2)入れて保管した場合

とで、精子の元気さ(高速直進運動精子)を比較しました。

すると、保管前の元気さを100とした場合、

SEEDPODに入れた場合の元気さは97
元気さがほぼ保たれていたのに対し、
入れなかった場合は23まで大幅に減少していました。


さすがに吹雪の中、ポケットに精液カップを入れて、
自転車かっ飛ばしたり、
5℃のところに30分も放置する患者さんは
いらっしゃらないとは思いますが、

自宅で採精した精液の温度を提出まで保つのに
優れた保温性能があると思います。



当院では12月17日より取り扱いを開始しました。

院内にサンプルもご用意しております。
お買い求めの際は、4F受付にお声がけください。
なお、詳しい説明をご希望の際には胚培養士におたずねください。




こんにちは、胚培養士 岸田です。

突然ですが、
皆さんは自宅で採精した精液を
クリニックまでどのように持ってきていますか?


バッグの中でしょうか?
それとも服のポケット?

病院に到着したあと、精液カップを触ってみてください。
ひんやり冷たかったら要注意です。
もしかしたら、精子が弱っているかもしれません。

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去年の冬、
人工授精をされた患者さんの中で、
精子に元気のない患者さんが何人か見受けられました。

気になって調べてみると、
皆さんに共通しているのは、

精液を「自宅から当院まで持参して提出」していること。

もしかすると、
自宅からの持参中に冬の外気で精液が冷やされ、
精子が弱まったのでは・・・?


そこで、これまでの当院での検査データをもとに
夏と冬、それぞれ持参した精液の検査結果を比較してみました。

その結果、
精液中の精子の数(精子濃度)は
夏と冬でほぼ同じ数であるのに対し、
動いている精子の割合(精子運動率)
夏に比べ冬の方が20%ほど少ない結果でした。

さらに、
人工授精に用いるために精子を洗浄しますが
その洗浄をした後の元気な精子の数
夏に比べて約半分に減少していました。

元気な精子の数が減れば、
当然卵子の周りにたどり着く精子の数が減ります。
その分、受精や妊娠のチャンスが減るということです。

体外受精で調べてみると、こちらの受精率はほぼ同じ成績でした。

しかし、

受精卵が良質な状態に成長する確率(良好胚盤胞発生率)
冬は夏よりも約30%減少していました。

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私は当院に勤務する以前、
青森県の不妊治療クリニックに勤めていました。

ご存知の通り、
青森は仙台よりもはるかに極寒です。
当時も夏と冬の精液検査の結果を比較したことがありましたが
その時の比較では、夏と冬の成績に差はありませんでした。



それでは今回の成績の違いは何でしょう?



考えるに、“自宅からの移動手段”の違いではないでしょうか。

青森は車社会です。
移動中は常に、温かい車中で保温されていたのでしょう。

一方で
移動手段の多くに公共交通機関を利用する仙台では、
徒歩での移動や屋外での待ち時間によって
精液が冷やされてしまった
と考えられます。


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そこで、持参中の保温方法についても検討しました。

タオル、アルミホイル、お弁当を入れるような保温バッグなど
ほとんど効果がないことが分かりました。
(他にも保温出来そうなもので試行錯誤したものの 温度を保てるものはなく…)


実験した中で一番保温性に優れていたのは、
魔法瓶型のスープジャー。

精液カップをスープジャーに入れて
5℃の冷蔵庫に1時間保管する実験を行いました。
精液の温度は下がらず、運動率の低下も見られませんでした。


また道具を使用せず保温する方法もあります。

着ている衣類に挟んで(胸元や腹部)30分
冬の仙台を闊歩。
こちらも実験し、人肌の温度を保てています。

衣類に挟むと、ずれ落ちてきそうだと
実験中スタッフがカップポシェットなるものを作成しました。

首から下げるのでずれ落ちる心配がありません。

持参にて精液提出される場合は、ぜひお試しください。
(当院では今後、保温コンテナの取り扱いを検討しております)



こんにちは、岸田です。
前回、前々回と受精障害についてお話ししてきました。

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さて今回は、レスキュー顕微授精について。
当院では新たに導入を開始しています。

どんな方法かといいますと
まずは、精液検査で精子状態に問題がないことを確認し
通常体外受精を行います。

その結果、卵子に受精の兆候が見られなかった場合
その卵子に顕微授精を行う(=レスキュー顕微授精
ことをいいます
受精方法の種類って?

通常体外受精のメリットは、
女性の体内で起こる受精とほぼ同じであることです。
より自然な受精に近いといえます。

ところが受精障害がある場合
体外受精では受精が困難で、大部分~全てが受精しません。
受精障害って?


レスキュー顕微授精は、

通常体外受精を行って
万が一受精障害などが原因で、受精卵が得られないということを
防ぐための方法
です。
(レスキュー顕微授精を行った卵子の受精率は、通常の顕微授精とほぼ同じと言われています)

当院では、蓄積されたデータや研究結果を基に
受精兆候の判定や実施基準を設けています。

(1)受精兆候の判定
 判定は、卵子の観察に慣れた胚培養士が行います。
 通常体外受精で受精している卵子にさらに顕微授精で精子を入れるという
 ことがないように判定は時間をずらして2回行います。
 当院ではタイムラプスインキュベーターを用いて、受精兆候の判定を
 行っています。

(2)卵子のエイジング
 採卵翌日に受精の確認をおこないます。
 しかし、受精観察後にレスキュー顕微授精を行っては、卵子が既に老化
 してしまっていて、順調に発育してくれません。いかに早く受精の兆候を
 見つけてレスキュー顕微授精するかがポイントです。
 当院では、当日中(夕方ごろ)にレスキュー顕微授精を行います。
 これにより卵子の老化はほぼ起こらない考えます。


ただし、なかには
レスキュー顕微授精を行っても受精障害となる場合があります。
精子が卵子の中に侵入した後に、
卵子が精子の侵入に気づけない場合がある
ためです。

レスキュー顕微授精の導入によって、1個でも多くの受精卵ができ、 治療が円滑に進むことを願っております。

ご質問やご希望がございましたら
診察中等にお申し付けください。
医師または胚培養士の方で対応いたします。
長文お読みいただきありがとうございました。



こんにちは、岸田です。
前回に引続き受精障害についてです。
☞前回のお話はこちら受精障害ってなあに?~その1~

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体外受精の治療で採卵した患者さんが、まず初めに決めることが
“受精方法”です。

受精方法には
〇通常体外受精
 (別名:ふりかけ法、コンベンショナルIVF etc)
〇顕微授精
 (別名:ICSI(イクシー))
の二つがあります。

通常体外受精は卵子の周りに元気な精子をふりかける方法で、
顕微授精は卵子の内部に精子を1匹だけ入れる方法です。

どちらの受精方法を行うか
基本的に精液検査の結果をもとに決定しています。
が、そこで問題になってくるのが受精障害です。

通常体外受精では
顕微授精よりも受精障害となる可能性が高いのです。

その理由は
顕微授精は、精子を卵子の中まで導いてあげますが、

通常体外受精では
精子が自力で卵子の中に侵入しなくてなりません。
精子が自力で入れなければ受精は成立しません。(=受精障害)

そのぶん通常体外受精の方が
受精障害の起こる可能性が高くなるというわけです。

胚培養士としても
事前に受精障害の予測が付けられず
受精率が低いと非常に悔いが残ります。

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これまで当院では
スプリット法という方法で受精障害の対策を行っていました。

この方法は
通常体外受精顕微授精どちらも行う”という方法です。

例えば、採卵で得られた卵子が10個だった場合、
5個は通常体外受精
残りの5個は顕微授精
で受精させてあげます。

精子が卵子の中に入れないことが原因の受精障害であった場合、

結果として
通常体外受精を行った5個は受精できないことになりますが
顕微授精の方で受精が成立する可能性は十分にあります。


この方法は、受精障害の対応策として非常に有効的であり、
当院での採卵が初めての患者さんには、
スプリット法を行っていました。



ですが、スプリット法には次のような課題があります。

①受精障害ではない患者さんにも顕微授精をすることになる。
日本産婦人科学会には、顕微授精は”顕微授精を行わないと妊娠の可能性が極めて低い場合に実施することが望ましい”という規定があります。
↑ここでいう顕微授精の適応は、精子の数が少ない患者さんや、既に受精障害の可能性が高いと判断する患者さんを指します。


②顕微授精をすることで、費用が高くなってしまう。

③患者さんが受精障害だった場合、
通常体外受精に振り分けた卵子からは受精卵が得られない。

上の例でいうと、通常体外受精に振り分けた5個は未受精となり培養が終了になります。折角たくさんの卵子が得られたのに、受精卵は数個のみという結果になります。




そこで、当院で新たに導入するのが
レスキュ―顕微授精という方法です。


それでは、次回レスキュ―顕微授精について
詳しくお話致します。



こんにちはパンツブログ著者、岸田です。
先日、ある患者さんから
ブログの内容についてお褒めの言葉をいただきました。
大変光栄でございます。

患者さんからご意見、ご感想いただけると
こちらもやりがいを感じます。
私、おだてられればすぐ調子にのるタイプです。

質問やリクエストなどがございましたら
ぜひお気軽にお申し付けください。

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さて、気を良くして再び投稿いたします。

今回は受精障害のお話です。

みなさん受精障害ってご存知でしょうか?
簡単に言うと“卵子と精子が受精しないこと”です。

受精とは精子が卵子の中に侵入し、
卵子が精子の侵入に気づくことで起こります。

この一連の流れがうまくいかないと受精となりません。
ですので、受精が起きない原因は大まかに言うと、

(1) 精子が卵子の中に入れない
(2) 卵子の中に精子が入ったことを卵子が気付けない


この2つが上げられます。

そして受精障害とは、体外受精の際に得られた卵子の全て
または大部分が受精しないこと
を指します。

どのように確認するかといえば、
普段の診療や検査などで診断や原因を特定することはとても難しく
実際に体外で受精するかどうか確認する事で
受精障害の判断をすることになります。

そのため実際に体外受精を行い、
その結果受精率が極端に低いと“受精障害の可能性あり”

ということになります。

ご夫婦が受精障害である可能性は、
体外受精の治療を行っている患者さんの中で
約1割位といわれています。


体外受精の治療で採卵した患者さんが、まず初めに決めることは
“受精方法”です。


もし受精障害だった場合、どんな受精方法を選べばいいのか。


話に熱が入って、またまた長文になりそうですので
受精方法については、また次回お話いたします。