当院では、日常的にお子さんを望まれているカップルに対して、
体外受精後の受精卵の凍結保存を行っていますが、
その技術を生かして、
がん患者さんの卵子や精子の凍結保存
も行っています。
がんや白血病なども、医学の進歩により治療成績が上昇していますが、
一方で治療による薬や放射線照射により、
将来妊娠できる可能性(妊孕性)が失われてしまう可能性があります。
そのため、治療前に卵子や精子を凍結保存しておくことで、
将来お子さんを得られる可能性を残すことができます。
受精卵は複数の細胞から成るため、
凍結融解後の生存率は当院実績でも99.9%となっています。
しかし、卵子はわずか1個の細胞であることからも、
凍結保存技術は比較的難しく、生存率は90%を上回る程度です。
実際に、日本で体外受精を行っている施設のうち、
がん患者さんの卵子凍結を行っている施設はおよそ3割程度でしかなく、
地域によっては凍結保存を希望されても
叶えにくい状況もあることが考えられます。
当院は「宮城県がん・生殖ネットワーク」に加入しており、
がん治療前の限られた期間の中で施設同士円滑に連携し、
がん患者さんに正しい情報提供を行えるような仕組みが作られています。
具体的には、
①がん治療施設と、東北大学病院や宮城県立がんセンター
といったコーディネーター施設の連携による
凍結保存の情報提供、
②コーディネーター施設と当院などの
凍結保存施設の連携による凍結保存の実施です。
当院は、凍結保存の実施施設として、がん患者さんの体調を最優先しつつ、
安全かつ安心して治療を受けていただけるような取り組みをしてきました。
この度、当院は日本がん・生殖医療学会で認定している
【認定がん・生殖医療施設】として承認されました。
がん治療自体や、卵子や精子の凍結保存といった生殖医療は、
多くの領域かつ多職種(医師、薬剤師、看護師、心理師、検査技師、
栄養士、社会福祉士、培養士など)が関わっています。
がん患者さんに、将来妊娠できる可能性が
失われてしまう可能性があるということ、
凍結保存によってお子さんを得られる可能性を残せることを社会に啓発し、
より高度ながん・生殖医療の提供を実現するための制度
となっています。
今後もがん患者さんに希望を持って治療に臨んでいただけるように、
精度の高い凍結保存技術を提供するとともに、
啓蒙活動にも携わっていければと思います。
培養士:菊地