テーマ: ラボより
例年と違う、今年の学会
こんにちは。医療技術部です。
鬼滅の刃によって財布のひもがゆるゆるな今日この頃です。
少し前に記事にしましたが、今年はWeb上で学会が開催されました。
学会期間中は
などと、日常会話で情報共有とディスカッションが行われる有意義な期間でした。
こんな感じでPC片手に仕事の合間や家で学会に参加出来ました。便利。
ということで、学会で得た知見を皆様にお話ししたいと思います。
担当者的には、ゲノム編集の話が大変に興味深いのですけど…
(ノーベル賞も取りましたし)
ブログで扱うには時期尚早(炎上不可避)な気がしております。
小心者ですので無難なPGT-Aの情報をお話します。
当院でもPGT-Aの特別臨床研究が始動して
多くの方にご協力いただいておりますが、
なかなか正常胚が出ず、移植まで進みにくい現状です。
そこで正常胚が出やすいのはどんな受精卵か?
といった内容の発表があったので聞いてみました。
いつものごとく結論から話しますと、
「妊娠率が高い受精卵は染色体数正常の可能性が高い」
…当たり前では?
経験値的に認識されていた事項が、
PGT-Aによって裏付けされたってことが大きな成果です。
染色体の正常・異常には
“女性年齢”
“TEのグレード”
“胚盤胞の大きさ” が関連しているとのこと。
これらは今まで妊娠率に関連していると言われていた項目です。
少し胚盤胞グレードの解説をしたいと思います。
胚盤胞は“内部細胞塊(ICM)”と“栄養外胚葉(TE)”の
2通りの細胞から成り立っています。
ICMは胎児になる細胞で、TEは胎盤になる細胞です。
また、胚盤胞は成長段階によって1-6に分けられます。
下図のように、成長段階(1-6)と細胞の状態(A>B>C)から
胚盤胞のグレードが付けられます。
少し話はそれますが、
移植胚を決める時にICMとTEのグレードで優先すべきはどちら?
という命題がありました。
要するに4ABと4BA、どちらを優先的に移植すべきなの???ってことです。
もちろん胎児を優先すべきじゃない?と思いますが、
実はTEグレードが良い方が妊娠率は良いです。
…どっちがいいんや??
こんな感じで今までは結論がついていませんでしたが、
4ABと4BAのPGT-A結果を見ると一目瞭然。
4BAの方が染色体数正常胚の割合が高い事が分かりました。
ということで、移植胚は妊娠率を優先して決めて良いとわかったのです。
以上のようなことが最初に書いた、「PGT-Aによる裏付け」の大きな成果です。
学会の話題よりも胚盤胞の話が長くなる不思議現象が起きました。反省します。
余談ですが、(無理して読まなくていいです)
PGT-Aに供する細胞はTEです。
胎児になるICMは傷つけないように細心の注意を払います。
(胎児に悪影響を与えてしまうかもしれないので)
鋭い人なら疑問に思うのではないでしょうか。
TEの検査なら、TEグレードが良い方が
正常胚になりやすいのは当たり前じゃないか。
ICMの検査じゃないのに…ほんとに胎児の状態を反映しているの?
…その通りです。
ICMとTEの染色体一致率は95-98%ですので、
TEによって胎児の状態が必ずしも反映されるとは言い切れません。
内村航平のコロナ疑陽性が一時期話題になりましたよね。
PGT-Aも一緒です。分析技術の限界です。
(確かめるにはもう一度PGT-Aするか、羊水検査しかありません)
世の中に“絶対”はないってことかもしれませんね。