テーマ: 体外受精のはなし
精子は寒さに弱い?!
こんにちは、胚培養士 岸田です。
突然ですが、
皆さんは自宅で採精した精液を
クリニックまでどのように持ってきていますか?
バッグの中でしょうか?
それとも服のポケット?
病院に到着したあと、精液カップを触ってみてください。
ひんやり冷たかったら要注意です。
もしかしたら、精子が弱っているかもしれません。
------------------------------
去年の冬、
人工授精をされた患者さんの中で、
精子に元気のない患者さんが何人か見受けられました。
気になって調べてみると、
皆さんに共通しているのは、
精液を「自宅から当院まで持参して提出」していること。
もしかすると、
自宅からの持参中に冬の外気で精液が冷やされ、
精子が弱まったのでは・・・?
そこで、これまでの当院での検査データをもとに
夏と冬、それぞれ持参した精液の検査結果を比較してみました。
その結果、
精液中の精子の数(精子濃度)は
夏と冬でほぼ同じ数であるのに対し、
動いている精子の割合(精子運動率)は
夏に比べ冬の方が20%ほど少ない結果でした。
さらに、
人工授精に用いるために精子を洗浄しますが
その洗浄をした後の元気な精子の数が
夏に比べて約半分に減少していました。
元気な精子の数が減れば、
当然卵子の周りにたどり着く精子の数が減ります。
その分、受精や妊娠のチャンスが減るということです。
体外受精で調べてみると、こちらの受精率はほぼ同じ成績でした。
しかし、
受精卵が良質な状態に成長する確率(良好胚盤胞発生率)は
冬は夏よりも約30%減少していました。
------------------------------
私は当院に勤務する以前、
青森県の不妊治療クリニックに勤めていました。
ご存知の通り、
青森は仙台よりもはるかに極寒です。
当時も夏と冬の精液検査の結果を比較したことがありましたが
その時の比較では、夏と冬の成績に差はありませんでした。
それでは今回の成績の違いは何でしょう?
考えるに、“自宅からの移動手段”の違いではないでしょうか。
青森は車社会です。
移動中は常に、温かい車中で保温されていたのでしょう。
一方で
移動手段の多くに公共交通機関を利用する仙台では、
徒歩での移動や屋外での待ち時間によって
精液が冷やされてしまったと考えられます。
------------------------------
そこで、持参中の保温方法についても検討しました。
タオル、アルミホイル、お弁当を入れるような保温バッグなどは
ほとんど効果がないことが分かりました。
(他にも保温出来そうなもので試行錯誤したものの 温度を保てるものはなく…)
実験した中で一番保温性に優れていたのは、
魔法瓶型のスープジャー。
精液カップをスープジャーに入れて
5℃の冷蔵庫に1時間保管する実験を行いました。
精液の温度は下がらず、運動率の低下も見られませんでした。
また道具を使用せず保温する方法もあります。
着ている衣類に挟んで(胸元や腹部)30分
冬の仙台を闊歩。
こちらも実験し、人肌の温度を保てています。
衣類に挟むと、ずれ落ちてきそうだと
実験中スタッフがカップポシェットなるものを作成しました。
首から下げるのでずれ落ちる心配がありません。
持参にて精液提出される場合は、ぜひお試しください。
(当院では今後、保温コンテナの取り扱いを検討しております)